世界5大ウイスキーのひとつに数えられるアイリッシュウイスキーは、ウイスキー発祥の地とも言われるアイルランドで造られるウイスキーです。
アイルランドのウイスキー造りは、一時スコッチウイスキーに押されて衰退していましたが、再びウイスキー愛好家から注目されるようになり人気が復活しています。
今回は、初心者の方におすすめしたいアイリッシュウイスキーの銘柄をいくつか紹介します。さらに、選ぶときのポイントや基礎知識とあわせて解説します。
アイリッシュウイスキーを選ぶ3つのポイント
アイリッシュウイスキーは、原料や蒸留所の特性、熟成に使用される樽によって味わいに違いがあります。
ここでは、自分の好みに合うウイスキーの選び方を紹介します。
ウイスキーの種類で選ぶ
アイリッシュウイスキーには、「ポットスチル」「モルト」「グレーン」「ブレンデッド」の4タイプがあります。それぞれの特徴は次の通りです。
- ポットスチルウイスキー
- 大麦麦芽(モルト)と未発芽の大麦を原料にし、単式蒸溜器(ポットスチル)で3回蒸溜したウイスキー。豊かで複雑な風味とクリーミーな口当たりが特徴です。
- モルトウイスキー
- 麦芽(モルト)のみを原料にし、単式蒸溜器で3回(または2回)蒸溜したウイスキー。シングルモルト・アイリッシュウイスキーとも呼ばれます。原料由来の香りや味が色濃く反映されるので、個性豊かなウイスキーに仕上がります。
- グレーンウイスキー
- トウモロコシなどを主原料にし、連続式蒸溜器で蒸溜したウイスキー。クセが少なくマイルドな味が特徴です。
- ブレンデッドウイスキー
- ブレンデッドウイスキーは、個性豊かなモルトウイスキーとなめらかなグレーンウイスキーを組み合わせてブレンドしたウイスキーです。ウイスキー初心者の方や、飲みやすく口当たりの良いウイスキーが好きな人におすすめです。
蒸溜所で選ぶ
アイリッシュウイスキーの蒸留所は、操業中や計画中のものも含めて40近くあります。それぞれの蒸留所によって、原料や製法が違う銘柄が楽しめます。
ブッシュミルズ蒸留所
ブッシュミルズ蒸留所は、アイルランド島の北端に位置する北アイルランドのアントリム州にあります。
1608年に当時のイングランド王が、ブッシュミルズ蒸留所があるアントリムの領主に蒸留免許を交付したという記録が残されていて、アイリッシュウイスキー最古の蒸留所のひとつです。
ブッシュミルズ蒸留所では、モルト原酒の原料には100%アイルランド産のノンピート麦芽を使用、伝統的なアイリッシュウイスキーの製法である3回の蒸留を行ってウイスキーを造っています。
そのため、軽やかでスムースな口当たりでありながらも、モルトの味わいをしっかりと感じられるのが特徴です。
ミドルトン蒸留所
ミドルトン蒸留所は、アイルランド島の南部に位置するコークにあります。
ジェームス・マーフィー兄弟が、1796年に建てられた元紡績工場を買取して蒸溜所に改装。その後、1825年に操業を開始しました。
この蒸留所は、1975年に創業を停止して現在はジェームソン・ヘリテージという博物館として利用されています。現在、稼働しているのは1975年に操業を開始した新ミドルトン蒸留所です。
新ミドルトン蒸留所には、世界最大級の蒸留器があり、4基のポットスチルと連続式蒸留機の組合せによるさまざまな原酒がつくられ、また貯蔵樽にバーボン樽とシェリー・ウッドを使うことで、多種の製品が生み出されています。
クーリー蒸留所
クーリー蒸留所は、アイルランド共和国の首都ダブリンの北に位置するダンドーク近郊にありあります。
1970代まではジャガイモからアルコールを蒸留する国営の工場でしたが、アメリカでアイリッシュウイスキーの歴史を研究していたジョン・ティーリングが、買収して設立されました。
伝統的なアイリッシュウイスキーは、モルトと未発酵の大麦を混ぜ合わせて3回蒸留する製法が主流です。ところが、クーリー蒸留所で造られている「カネマラ」は、2回蒸溜のシステムをとっています。
樽の種類で選ぶ
ウイスキーは熟成する樽の種類によって味わいや香り、色に変化が生じます。
- バーボン樽
- バーボンを熟成させた後の樽。さわやかなバニラの香りと木香を感じられます。
- シェリー樽
- シェリーを熟成させた後の樽。熟成を重ねるごとに、シェリー特有のフルーティーな甘味と、ハチミツに似たとろりとした甘さが生まれます。
- ワイン樽
- ワインを熟成させた後の樽。ワイン特有の酸味とフルーティーな甘さが感じられます。
熟成期間で選ぶ
ウイスキーは熟成期間によって香りや味わいに変化が生じます。アイリッシュウイスキーは、最低3年以上の熟成期間を定めていますが、その年数が長くなるほど、香りや味わいに深みが生まれます。
とげとげしくない風味やなめらかな口当たりのウイスキーを楽しみたい方は、熟成年数の長いものを選ぶとよいでしょう。
アイリッシュウイスキーおすすめ銘柄12選
アイリッシュウイスキーのおすすめ銘柄を紹介していきます!
グリーンスポット

グリーンスポットは、ダブリンのミッチェル&サン社のブランドです。8〜12年熟成させたポットスチル原酒を使い、バーボン樽の他にシェリー樽を25% 使用して熟成させています。
軽快な風味でありながらもフルーティーで複雑な味わいが特徴です。製造本数が少なく、年間2,000ケース限定販売のため、希少なウイスキーとして知られています。
イエロースポット 12年

イエロースポットは、上記で紹介したグリーンスポット同様、ダブリンのミッチェル&サン社のブランドです。1950年代を最後にボトリングされたオリジナルを復活させ、2011年にリリースされたウイスキーです。
ミドルトン蒸留所で造られたポットスチル原酒を、アメリカのバーボン樽、スペインのシェリー樽とマラガ樽の3つの樽で12年以上熟成させています。マラガ樽によるエキゾチックな甘い香りが特徴です。
ブッシュミルズ シングルモルト10 年

ブッシュミルズ シングルモルト 10年は、アイリッシュウイスキー最古のブッシュミルズ蒸留所で造られているシングルモルトウイスキーです。
ノンピートのモルトのみを使用して、アイリッシュウイスキーの伝統的な製法である3回蒸留によって生み出された原酒は、バーボン樽に詰められて10年以上熟成されています。
バーボン樽由来のハチミツやバニラのような甘い香りと、複雑な味わいが特徴です。
カネマラ

カネマラは、アイリッシュの革命児とも言われるクーリー蒸留所で造られるシングルモルトウイスキーです。
下記3つのモルト原酒をブレンドしていて、ピーティーさとフルーティーな香り、ハチミツのような甘い味わいが特徴です。
- フレッシュで勢いのあるピーティーな感覚のある4年熟成のモルト原酒
- ほのかなフルーティーさと、バーボン樽由来のバニラのような味わいが感じ取れる6年熟成のモルト原酒
- バーボン樽由来の甘さがしっかりと感じ取れる8年熟成のモルト原酒
ジェムソン スタンダード

ジェムソンは、アイリッシュウイスキーの中で最も生産量の多いブランドです。ピートを使わず、大麦、モルト、グレーンの3つ原料としています。
3回蒸留で造られていて、なめらかな口当たりと豊かな香り、スムースな味わいを楽しめます。
タラモアデュー

タラモアデューは、「ポットスチル」「モルト」「グレーン」の3つをブレンドしたウイスキーです。その誕生は1829年で、アイリッシュウイスキーでは最初に商品化されたブレンデッドウイスキーと言われています。
ジェイムソンに次いで2番目に販売量が多いブランドです。専門家の間では「繊細で滑らかで快いモルティネスがある」と高く評価されていて、原料の大麦の穏やかな風味と豊かな甘味を楽しめます。
ティーリング シングルグレーン

ティーリング シングルグレーンは、カリフォルニア赤ワインの熟成に使用された樽を用いて熟成させたシングルグレーンウイスキーです。
2014年のワールド・ウイスキー・アワード(WWA)においてワールド・ベスト・ウイスキーに選ばれています。 スパイスとフルーツの甘さと混ざり合った香りに、スパイシーな味わいが特徴です。
ライターズ ティアーズ

ライターズティアーズは、1999年にウォルシュ夫妻によって設立されたウォルシュ蒸留所が造るアイリッシュウイスキーです。
シングルモルト原酒とシングルポットスチル原酒をブレンド。3回蒸留した後にアメリカンオークのバーボン樽で熟成させています。
やさしいスパイスとフルーティーな味わいで、ダークチョコレートを感じさせるエレガントな余韻が特徴です。
ランベイ シングルモルト

ランベイ シングルモルトは、アイルランド島の東に位置する2.5㎢ほどの小さな島「LAMBAY島」で熟成が行われているウイスキーです。
コニャックの名門カミュ社がプロデュースしていて、バーボンカスクで5年熟成の後にカミュのコニャック樽で6か月の後熟を行っています。そのため、アイリッシュウイスキーの味とコニャックの豊かな風味のバランスが取れています。
レッドブレスト 12年

レッドブレストは、伝統的な製法を守り続けているシングルポットスチルのアイリッシュウイスキーです。
REDBREAST(レッドブレスト) とは、コマドリの赤い胸のことで、シェリー樽熟成の赤みを帯びたウイスキーにちなんでいます。
伝統的な銅製のポットスチルで3回蒸留して造られていて、豊かな風味と複雑さが絶妙なバランスのウイスキーです。
キルベガン

キルベガンは、30%のモルト原酒と70%のグレーン原酒をブレンドしたブレンデッドウイスキーです。
ウェストミーズ州キルベガンにある、1757年創業でアイルランド最古のブルナス蒸留所の代表ブランド。
バランスが良く複雑な風味でありながら、 スムースで飲みやすいライトな風味のウイスキーです。
パディ

パディは、グレーンの比率が50%ほどある珍しいブレンデッドウイスキーです。
元々はコーク蒸留所が1779年から製造販売していたウイスキーで、「オールドアイリッシュウイスキー」という銘柄名でした。しかし、売上を伸ばした名セールスマンにあやかり、1913年から「Paddy」に変更されました。
現在はミドルトン蒸留所で造られていて、ライトでソフトな口当たりと、アイリッシュウイスキー独特のスパイシーな香りが特徴です。
アイリッシュウイスキー初心者が知っておきたい基礎知識
ここでは、アイリッシュウイスキーの歴史や定義など、基礎知識について解説していきます。
アイリッシュウイスキーの歴史
アイリッシュウイスキーは、アイルランド共和国および北アイルランドでつくられるウイスキーの総称。
その始まりは明確になっていなく、アイリッシュウイスキーとスコッチウイスキーどちらの歴史が古いかという論争があります。しかし、確かな資料が残っていないためはっきりとはわかっていません。
しかし、12世紀にイングランドのヘンリー2世がアイルランドに侵攻した時には、大麦から蒸留したお酒を飲んでいたという話が伝わっています。
その後、18世紀にはアイリッシュウイスキーの全盛期を迎えて、アイルランド各地におよそ2,000もの小さな蒸留所があったそうです。19世紀半ばになると蒸留所は統合され160か所に、1880年には28の蒸留所でアイリッシュウイスキーが造られていました。
全盛期には世界のウイスキー市場のシュアの6割を占めていたアイリッシュウイスキーですが、1919年に主な輸出先であったアメリカ合衆国で禁酒法が定められたため、生産規模が縮小して多くの蒸留所閉鎖されました。
衰退期を迎えた1920年代には、アイルランドで残ったのは「ブッシュミルズ蒸留所」と「ミドルトン蒸留所」の2つの蒸留所だけとなります。
20世紀後半にあると、再びアイリッシュウイスキー注目を集め、
1987年 クーリー蒸留所
2007年 キルベガン蒸留所
2014年 タラモア蒸溜所
2017年 ティーリング蒸留所
一度閉鎖された蒸留所が次々と再開して、アイリッシュウイスキーは復活しました。
アイリッシュウイスキーの定義
アイリッシュウイスキーは、アイルランドの法律によって以下のように定義されています。
- 原料は穀物類
- 麦芽に含まれる酵素によって糖化し、酵母のはたらきで発酵させること
- 蒸留時のアルコール度数は94.8度以下
- 木製樽に詰め、アイルランド共和国もしくは北アイルランドの倉庫で3年以上の熟成をおこなう
アイリッシュウイスキーとスコッチウイスキーの違い
アイリッシュウイスキーとスコッチウイスキーには、3つの違いがあります。
違い① 麦芽を乾燥させる際にピートを使うか使わないか
ピートの香りがスコッチウイスキーの特徴でもあります。一方、アイリッシュウイスキーの製造工程ではピートは使われません。
ピートとは
スコットランド特有の泥炭のことです。ほとんどのスコッチウイスキーでは乾燥と香りづけのためにピートが使われます。
違い② 蒸留の回数
スコッチウイスキーが2回蒸留するのに対して、アイリッシュウイスキーは蒸留を3回行います。そのため雑味が少なくなめらかで軽快な口当たりのウイスキーに仕上がります。
違い③ スペル
実は「ウイスキー」のスペルが違います。スコッチウイスキーは「WHISKY」ですが、アイリッシュウイスキーは「WHISKEY」と”E”が1文字多くなっています。
ちなみに日本ではスコッチウイスキーをお手本にウイスキー造りが始まったので、「WHISKY」と書くことが多いようです。
まとめ
古い歴史を持ち、スコッチウイスキーとともにウイスキーの始まりと言われるアイリッシュウイスキー。
一時はアイルランドのウイスキー造りは一時衰退しましたが、現在復活を遂げ世界のウイスキー愛好家から注目されています。
今も伝統的な製法で造られているアイリッシュウイスキーも多いので、ぜひウイスキーの歴史を感じながら味わってみてはいかがでしょうか。